「交渉力」を高めたい。そのために20冊ほどの本を読みまとめました。
「交渉」とは意思決定の1つである。このため、まずは自分の中で日々行っている「意思決定」のプロセスを固めることが大事である。そのうえでチームや同僚の関与を意識した意思決定の進め方についてスキルを身に着け、最後に利害が対立する相手と行う意思決定につけてテクニックを学ぶ、の順番で進めるのが良い。
基本的には自分自身での意思決定のプロセスが肝となるが、他社が関与する場合は、ファシリテーションの技法や情報バイアスや心理的バイアスも必要になっていく、という視点で学ぶと良い。
1 個人としての意思決定力を高めるには
意思決定とは、つまるところ選択肢を考えて並べ(2分法で思考停止せず、第3の道や条件付のオプションも考える)、そこに決定ルールを設定して判断することである。決定ルールには評価基準(何を基準とするか、評価基準同士の重みづけ) を考える必要がある。
実際のプロセスは、以下となるであろうか。
①目的を明確にする。
何のための決定なのか。顧客志向など、ゼロベースで考える。
②戦略を考える
目的を達成するにあたり、大まかな方針や戦略を考える。多面的に。
コストなどの制約条件がないか、改めて整理する。
③決定の選択肢を考える、案出しをする
Yes, Noだけではなく第3の案はないか、条件づけた形はないか考える。
④フレームワークを使って整理する、案を収束させる
ロジックツリーで多面的に分析して整理を行い、抜けモレがないか確認
⑤決め方や評価基準(傾斜)を明確にする
そもそも決定事項が重要かどうか判断する。重要でないなら、直観で決める。
評価基準をつくって重みづけによって決定するのか。足切りなのか。
急ぎであるならば、仮説思考でアクションありきで進めるのか。
⑥評価を点数付けするための情報収集を行う
視点を上・下、未来・現在・過去と変えて考える
根拠については、基本は「事実・数字・データ」のファクトから。
⑦評価基準をもとに、傾斜をかけて優先度を点数化、最終決定
ファクトからロジックを積み、傾斜にあわせて採点を行う。
事実:意見は1:9。積み切った段階で、点数化して、最後に直観で飛ぶ。
①について「顧客のニーズ」となる場合、「何ができるか」については最新技術、他フレーム、社会の潮流、最新の学術理論、海外の最新事例などを情報収集して取り出せるようにしておく。⑤については、データそのものの信ぴょう性も疑えるようにしておく姿勢が求められる。
ロジックツリーの作成や要素分解は一度で完成するのものではない。③~⑥は行き来し、アジャイル開発のように繰り返し見直しを行う。足りない部分は仮説思考でベストゲスを行う。MECEも、切り口を意識しながら100%カバーできているか否かを考える。ロジックツリーをつくるうえでの切り口は、過去の事例などからストックできると考えている。
集団で意思決定をするときは、相手の意見を引き出しながらこのロジックツリーを作るようなものである。また事前に完成度の高いロジックツリーを作成し、提案内容までの思考プロセスを示すことで、相手に対して有利なポジションを取れ、他者に対しても自信をもって勧めることができ、交渉力が上がるというのがある。MECEになっているロジックツリーこそが、相手を納得させるうえで重要となる。
2 チームや集団での意思決定力を高めるには
基本的には個人での意思決定のプロセスを皆で行うこととなる。
自分の考えを相手に伝えることが求められるが、①発言する要素を考える(何を発言するか)、②発言する際のテクニックを考える(どう発言するか)、を分けて考えることが必要となる。
さらに個人の時と意思決定プロセスで異なるのは、話す流れが脱線することもあれば、メンバーの中には我関せずという姿勢をとる人もいるなど様々な障害が発生する。また皆で決めた内容に基づき、参加者がその後アクションを起こすことが目的となるならば、単に論理的であればよいのではなく、各参加者の「受容度」や「満足度」も重要となる。
このため集団での意思決定では決定内容だけでなく、決定までに至るルール、プロセスが適切かどうかを特に評価する。受容度や満足度を高めるために、心理的バイアスを意識した問いかけや質問、具体的な中間合意の繰り返し、空気づくり、ファシリテーション、ホワイトボードを使うのも効果的となる。
自分がリーダーでなくとも、意思決定のプロセスを、自制心をもって運営する役割を誰かが担わなければならない。同僚や専門家からの多様な意見を引き出すための「プロセス」を準備し、テクニックを駆使しながら、自分ではなくまわりに決断させ、その決断を自分で受け入れるようにする。
3 利益が対立する相手との交渉
■参考文献
参考にした書籍は以下のとおり。ランク付けしました。
■意思決定に関する本(個人でどのように考えるか)
・ゼロベース思考(顧客志向)、仮説思考(アクションと紐づく)、ロジックツリーの作り方(MECEとセット)について説明している。ツリーの右側が具体的な原因や解決策になっているか等、ロジックツリーの見方についても学べる。
・問題の見つけ方についても記載している。「問題」とは「現象」であり、何かを比較(時系列、他社との比較、マーケットリーダーとの比較)することによって、今後の解決すべき「課題」が出てくる。
・意思決定とは選択で、選択のためには決定ルールが必要と述べる。決定ルールには評価基準が必要となり、評価基準同士の重みづけも避けられない。結果よりプロセス。
・規範的意思決定論:問題の定義→評価基準の発見→基準間の重みづけ→選択肢の生成→基準に基づいた選択肢の評価→最適な決定の計算→選択肢の選択のプロセスで決める。ただしこれらをすべて完璧に行うことはできない。ゆえに実証的意思決定となる(直観)。実証的意思決定となる場合、バイアスもかかってくるため、そこの程度をどの程度にするのかが肝要。
・さらに世界の複雑性・情報のゆがみ・認知能力の限界・同町圧力などで意思決定が難しくなる。だが、だからこそ集団で考えること、意見を発する事に価値がある。
・リーダーとして、集団での決断について述べている。決断のためには、意思決定のプロセスおw決め、自制心をもって運営することが役割となる。同僚や専門家からの多様な意見を引き出すための「プロセス」を準備し、テクニックを駆使しながら、決断に至るまでのプロセスを踏むことができるか運営することが必須。
・自分ではなく、まわりに決断させ、その決断を自分で受け入れるようにする。意に沿った決断をさせたいなら、空気づくりや戦略づくりが組織の決断を支配する要諦。
・参加者が決定内容に同意して協力するということが、コンセンサスの意味である。言葉だけの同意に意味はない。参加者にとって利益になるものでも、不適切なプロセスであれば受け入れられず、行動しない。その決定に満足していなくても、人々が最終的な選択としてそれを受け入れていればよい。自分が参加して決めた、という感覚が必要。
・決定は個人間、小グループの緊迫したインタラクションのプロセスから生まれることが多い。意見の対立を促しながら、最終的にコンセンサスを形成することが、受容度や満足度を高めるのに良さそう。 「具体的な中間合意を積み重ねる」進め方も良い。
・1998年に出版されて、まだお勧め本としてあげられることの多いもの。ロジックツリーやMECE、コンサルとしての心構えも学べる。特に目的をもって選択肢を検討する場合、全体像を示し咀嚼したうえで、それぞれの選択肢の感度=影響度の大きさを比較することの重要性がよく分かる。
・ビジネスにおいて仕事を進めるということは、プロセスを追って考えることである。人の思索の範囲には限りがある。メタ的に考え、プロセスを追えないことが多いため、意識的・強制的にメタ認知・プロセス志向で分析を行う。
■チームでの意思決定に関する本
ファシリテーション・ベーシックス ―組織のパワーを引き出す技法 (ファシリテーション・スキルズ・シリーズ)
- 作者: 堀公俊
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2016/02/18
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・議論においては意見、アイデア、知識といったコンテンツだけでなく、「どんなやり方で議論すればいいのか?」「誰に話を振れば良いのか?」といった進め方(プロセス )も同様に重要である。コンテンツに集中すると、プロセスがおろそかになる。
・ 会議での立ち回りについて整理してある。内容面の情報提供者であるナビゲーター、サプライヤー(発信者)、オーディエンス(回答をいじる)、調整役やまとめ役となるコーディネーター、カウンセラー、エディターとあり、自分がどの立場で行くのが良いか、ひとつの指針となる。
・30代中盤の女性が、開発センター長に任命され、逆境の中(若さ、女性、乏しい知識)でもファシリテーターの知識を用い、組織を改革するフィクション。ストーリー調で読みやすく、ファシリテーターの使い方が分かる本。会社の大きい目標に対して人を従わせたいと思ったら、再度読むと良い。
・インタラクションを活性化させるには、 マイナスの感情、不必要な遠慮や配慮を排除し、積極的なプラスの感情を横溢させることが必要と説き、そのためのファシリテーションの技法やフレームワークを使うことが重要と言う。
その際に質問も効果的である。全体を意識させる質問、分散(多様性)を意識させるもの、自分たちがコントロールできるものとそうでないものを意識させるもの、時間軸を意識させる、基準を意識させる等。
このため、私も物事の矛盾や対立を認識して突き詰め、そこにファシリテーションの技法を用いることで、新しい発想や高い次元への思考を目指すようにする。また、自らの思考や意思決定においても、主観的な感情等からの影響を軽減するため、ファイシリテーションの技法を用いるようにする。
実践ファシリテーション技法-組織のパワーを引き出す30の智恵
- 作者: 堀公俊
- 出版社/メーカー: 経団連出版
- 発売日: 2013/05/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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・集団での議論、特にファシリテーションでは、先頭ではなく、側面から舵取りし、「人と人をつなぐ」ことで、人や組織が持つ潜在能力を引き出すことと説く。また現代は顧客とベンダーの役割の壁を取り払い、対等なパートナー同士として、問題の本質的なソリューションを一緒に考えていく取り組みと言う。これまでコンサルタントは提案型が主流であったが、顧客との対話の中で一緒に問題の本質を探しだし、共に解決策を考えていく協働型に比重が移りつつある。複数の専門家が集まり、各々が持つ高度な知識と経験を組み合わせて問題解決を進めていく。
■利害が対立する相手との交渉テクニックに関する本
・なんとなくの感覚で、適当に交渉することは避ける。きちんと戦略を立てて。
・交渉ポイントが1つしかない場合、ゼロサムゲームになってしまうので、いくつもの論点を並行提示し、総合的な価値を生み出す交渉を行う。複眼的に価値の列挙をして、相対優先度を決めたうえで、交渉していい時かどうかも考えつつ臨む。
・相手の利得よりも、損失を強調する。利得は分散させ、損失をまとめる。警戒されにくい、間接的な質問をする。答えになっていない答えに注意し、相手のウソを察知する、自分が弱い立場にあることを明かさない、相手の弱点をつかって自分の弱点を隠すなど、テクニック的なものも多い。
・相手との信頼関係を醸成するための振る舞いについて。相手から「学ぼうとする」会話を心がける必要があり、好奇心を持つことで、自分の仲間として一緒に利益を最大化できる案を探しましょう。
・人に「変われ」「動け」といっても変わらないし、動かない。相手に対して好奇心をもち、ストーリーを理解し、(同意できないにしても)相手の主張のロジックを理解したうえで、相手が自分で「変わった方が良い」「動いた方が良い」と気づかせるような話し方が必要となってくる。
・悪い行動への対応にも注意する。いざこざを避けるために安易に合意すると、割に合うと先方に認識を与えてしまうことになる。
・交渉において「対等な関係」は存在せず、パワーバランスを決める要素が多々ありそれを説明する。単に合意が形成されたかだけではなく、「信頼感が醸成されたか」といった要素が、その後の行動にも影響してくる。交渉はその場だけでなく、事前・事後と長い目で見たい。