1 なぜ経営者報酬の設計が重要か
(1)企業の業績への影響
企業にとって業績は何よりも重要で、役員の動きは、その業績に大きな影響を与える。このため、企業としての業績を上げるためには、役員の責任の重さに対する固定的な報酬だけではなく、業績向上へのインセンティブを意識した制度であれば、役員による業績向上への真剣度が変わる。また短期の業績だけではなく、サステナビリティ、すなわち企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促すこともできる。
(2)組織活性化への影響
役員の動きは、組織としてのパフォーマンスを上げる点でも影響が大きい。役員による業績向上へのインセンティブは、間接的には組織制度の改善にも繋がっていく。組織一丸となって、業績向上に向けての姿勢を強めることができる。
(3)優秀な経営人材を確保できる
報酬が高ければ、役員が優れた成果を上げるだけでなく、優秀な人材を外部から獲得できる可能性が高まる。その一方、高すぎる報酬は株主が納得しない可能性もあり、バランスを考える必要がある。このため固定分は何に対してか、変動分は何に基づいて変動するのか、明示する。売上高、利益、株価など、外部の人が見ても明瞭な指標と報酬額が連動していなければならない。
(4)経営戦略への影響
経営報酬を決定するうえで、経営戦略に沿った目標を設定しなければならない。経営目標の達成度によって報酬額が変動する仕組みである。その目標を考える際に、改めて経営戦略を見直すこととなり、より現実的で達成可能な戦略へと修正を行う可能性もある。
(5)資金調達や税務上の配慮
役員報酬は様々な制限が税務上で課されている。報酬額が会社の資金繰りを左右する要因にもなりうるため、税制面にも配慮した構成とすべきである。
2 経営者報酬の設計のポイント
(1)組織風土、業績志向性、規制環境、ニーズの把握
戦略やコンセプトは企業によって異なるため、役員報酬には万能のアプローチは存在しない。各組織とっての適切な答えは異なるため、業種別に、そして企業自身の想いをもとに、設計を進める。
(2)インセンティブを盛り込んだ構成
会社としての業績向上に対しての動機付けのため、①固定報酬(取締役分・役位分・ポジション分)、②変動報酬(短期)、③変動報酬(中長期)を組み合わせる形が望ましい。
(3)内部、外部、個人のバランス
内部、外部、個人のバランスを取る必要がある。
内部バランス・・・内部公平性、組織内の権限・責任範囲に応じた報酬の設定
外部バランス・・・外部競合他社など世間水準に即した報酬の設定
個人のバランス・・業務執行に対する能力・業績に応じた報酬の設定
(4)経営者評価制度の導入
経営者の業績がどのように評価されるか、透明性と公平性をもった形で制度を設計する必要がある。また変動報酬に関係する目標は、SMARTであることが望ましい。
※SMART・・・Specific(具体的に)、Measurable(測定可能な)、Achievable(達成可能な)、Related(経営目標に関連した)、Time-bound(時間制約がある)。
(4)社員の人事制度との整合性
経営者報酬制度が、あまりに社員の人事制度とかけ離れているのも問題であり、整合性を考える必要がある。ただし、経営戦略に基づく目標達成のため、経営報酬が設定された場合、社員の人事制度も変えうるものと私は考えている。多くの社員が業績向上に向けて働くため、インセンティブ度合いが強くなる報酬体系へと移行することもあり得ると考えている。
3 経営者報酬設計の進め方
設計の流れは大きくいって、(1)現状分析、(2)詳細設計、(3)制度導入、の流れとなる。
(1)現状分析
定性的・定量的なデータに基づき、以下のような分析を実施する。
分析結果にもとづき、平均役員報酬額および職位別妥当水準、報酬項目別割合を試算。
①内部調査
・報酬額が、内部公平性があるか、各役員の役割の大きさ、能力・業績に応じているか
・役員構成は、年齢・人数推移から、適切か
・経営理念・戦略展開や現状認識をヒアリングし、会社の課題・将来リスクを想定
②外部調査
・外部競争力とのバランスが保たれているか
・同業他社の直近期の役員報酬、役員賞与、株式報酬の1人当たり水準を比較検討
・職位別の役員報酬額について、上場企業平均との比較検討
・収益性比較を行い、役員報酬額との関連を調査
・社員平均年収に対する役員報酬水準倍率について比較検討
・職位別の役員報酬額について、同規模企業平均との比較検討
③世間一般の評価
・世間が考える適正な役員報酬
(2)詳細設計
定めた方針に従い制度設計を行い、資料の整備、最適な評価ツール、進捗管理ツールも作成する。
①役員評価方法の設計
・役員評価基準設計
・役員評価項目・ウェイト設計
・役員評価表の作成
②業績に対するKPIの設計
・企業の意向、競合他社の業績と比較しつつ、KPIを設計する。
③役員報酬制度の設計
・報酬構成要素(年俸、賞与、ストックオプション)と比率の設計
・基本報酬(固定部分)の支給ロジック、賞与の支給ロジック、ストックオプションの支給ロジック
・報酬水準の調査、妥当性検証
・移行シミュレーション
(3)制度導入
以下の点で、制度導入を支援する。
・必要に応じ、役員や次期経営人材の育成制度設計、研修実施、施策アドバイスを行う。
以下の支援を複合的に行っており、人事系として総合的にコンサルティングできるのが強み。
②制度コンサルティング・・・労務監査、人事制度構築支援、役員報酬コンサル、役割等級制度構築、勤怠管理システムの導入支援、就業ルールの再設計・就業規則等の改定、目標管理制度の構築、制度導入時チェンジマネジメント支援、人事制度・業務管理に関するアドバイザリー
③研修コンサルティング・・・グローバルリーダーシップ研修、360度評価、コンピテンシーアセスメント、経営幹部選抜・育成プログラム、経営スキル研修、シナリオプランニング研修、戦略マップ策定研修、目標管理研修、評価者研修、リーダーシップ研修
(2)人事戦略研究所
(3)ウイリス・タワーズワトソン
外資系。経営者報酬(役員報酬)の分野に特化したチームが、世界中の拠点と連携・協力してサービスを提供する。調査・研究専任チームによる情報収集力・分析力および経営者報酬(役員報酬)分野におけるデータベースを持つ。他のサービス業務(「組織・人事アドバイザリー」・「データ」・「ソフトウェア・ソリューション」)と連携した分野横断的なアプローチが可能。
(4)三菱UFJ信託銀行
銀行系。クライアントのニーズに沿った報酬戦略の策定からインセンティブ・プランの設計・導入・管理までオーダーメイドで対応できる。経営者報酬サーベイにより、報酬水準・構成等の比較検討資料を提供可能。インセンティブ・プランのストラクチャー(役員報酬BIP信託等)も提供でき、戦略策定から実務支援までワンストップサポート、SR/IRを意識したコンサルティング、信託型インセンティブ・プランの開発等R&Dに強み、各分野(法務、会計、税務等)の専門家と連携してサポートなどが可能。
(5)デロイトトーマツ
役員報酬サーベイを10年以上実施し、サーベイに参加することで「透明性」「公平性」や納得性」を高めることができる。役員報酬データベース「DEX-i」を持ち、会計・税務・法務・オペレーション等、様々な観点から総合的に検討できる、
(6)マーサージャパン
組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野におけるサービスを提供する外資系コンサル。全世界約25,000名のスタッフが44ヵ国の拠点をベースに、130ヵ国以上でクライアント企業のパートナーとして勤務。MERG(役員報酬サーベイ)、GDD(Global Disclosure Database)等の豊富な市場プラクティス情報に基づく適切なアドバイスを提供する。日本では2013年から実施。ヨーロッパでは20年以上の実績。
(7)コーン・フェリー
役員報酬の市場競争力に関するベンチマーキング調査を実施し、法令遵守や開示の支援を実施する。IPO、合併買収、破産再生、重要幹部のリテンションプラン、解任や経営権変更時の規定などを含む報酬戦略上の問題にも対応可能。報酬データも持っており、150カ国、25,000社の2,000万人の専門職の報酬データを提供している。
(8)ペイ・ガバナンス
米国ペイ・ガバナンスLLPのグローバル・メンバーファームとして、日本で初めての独立系経営者報酬コンサルティング会社(役員報酬コンサルティング会社)として設立。経営者報酬(役員報酬)を専門とし、コーポレート・ガバナンスの視点から、中長期の企業価値と報酬を連動させる制度の設計と運用のアドバイザリーを行う。ガバナンス上重要な、経営者報酬に関する意見の表明に独立性を担保できる、報酬コンサルタンティングサービスの提供ができる。
(9)株式会社インフォランス
役員陣全体の役員報酬について、税金面で一番税金コストが低い最適な役員報酬額をどのように計算して設定すればいいのか、アドバイス可能。税金面で一番コストの低い、適正な役員報酬を導くためのノウハウと手段を踏まえ、このたび役員報酬適正化コンサルティングサービスを行う。
(10)アイ・アールジャパン
単なる株式報酬の導入支援だけでなく、中期経営計画の策定の支援からKPIの選定、報酬委員会の立ち上げ支援、報酬テーブルの策定(現金を含む報酬全体の設計)等、川上から川下までトータルな支援ができる。